蕎麦よしの
そのお店は嫁さんのお母さんのお墓のそばにある。
亡くなってもう20年だ。
ほぼ毎年1月の命日には墓参りに出掛けている。
自宅からは車で小一時間。
高速が開通する前は一般道を2時間ほどかけてお参りしていた。
墓参りして、少しの間天国へ向けてお話をして帰る。
一年に一度はそうやってお母さん想う日がある。
でもちょっと味気ない気がしていた。
お墓の前で話をするといっても5分10分のことだ。
もう少しお墓のあたりでうろうろしていたい。
でないと、申し訳ないような気がするのだ。
そんな時に、
墓地の正面入口の向かいに、なんというか無愛想な佇まいの建物があるのに気づいた。
最初はそば屋だとはわからなかった。
それくらい何の特長もないベージュ色の建物。
看板も入口まで行かないとわからない。
ある時ネットで調べてみた。
と、数量限定売切れ御免のせいろがうまい蕎麦屋だとわかった。
墓参りはだいたい昼過ぎになる。
じゃ、昼飯をお墓のそばで食うのもいいんじゃないか。
試しに行ってみた。
店内はシンプルモダンで、いい感じの絵が置いてあったりする。
床までの大きな窓の向こうには裏山と言えそうな風景が見える。
夫婦二人で切り盛りするお店。

注文したのは天せいろ。
えび、きす、かぼちゃ、ししとう、かき揚げだったかな。
細めの蕎麦がつるつるっと口の中へ、喉越しがうまい。
量がちょっと足りないかなとも思うが、
濃厚なそば湯でそこそこ腹にたまる。
数回通って鴨せいろも食べてみた。
これもうまい。
今まで食った鴨せいろの中で一番うまいんじゃないか。
ちゃんと鴨の味がする。
こんなうまい蕎麦屋に年に一回というものどうかと。
で、去年は夏にも墓参り。

夫婦お二人でやっているからか、出てくるまでに少々時間がかかる。
メニューの端に酒とある。
鄙願(大吟醸)
亀泉(純吟無ろ過生)
菊姫(山廃純米)
…などと書いてある。
あくまでも墓参りである。
が、蕎麦ができるまでの間をうまい酒をいだたきつつ
お母さんを想うのも一興。
でも、ま、ここでも運転手である。
帰りのことを考えると飲むことは叶わない。
命日にうまいそばが食えるのだ、それでよしとしよう。
ちょっとね、不謹慎かもしれないけど、
命日が待ち遠しくも思えてきた。

